福岡高等裁判所 昭和40年(行コ)7号 判決
以下は、判例タイムズに掲載された記事をそのまま収録しています。オリジナルの判決文ではありません。
〔判決理由〕二 まず、控訴人が本件許可処分の取消を求める法律上の利益を有するか否かについて判断する。
被控訴人の管理する本件公有水面(通称ひようたん川上水面)が控訴人所有の土地と訴外長崎造船株式会社の土地との間に介在し、従来、右対岸者双方においてそれぞれ造船所の工場敷地としてこれを事実上使用してきたが、それぞれ県当局にうながされ双方とも本件公有水面の正式使用許可を被控訴人に申請したところ被控訴人は、右公有水面の一部が双方の競願となていたため、昭和三五年一一月頃、右競願区域の使用方法を両者協議のうえ再申請をすること、等の理由により、控訴人および訴外会社双方の申請を却下したこと、その後、右競願区域の使用について互に譲らなかつたため協議成立の見込はなかつたので、訴外会社は控訴人の承諾書を添付することなく再度の許可を申請したところ、被控訴人は、かねて控訴人が川の中心線を基準として折半使用を主張していたのにかかわらず、一部、対岸の控訴人所有地側に入りこんだ公有水面の使用許可(その詳細は後記に譲る)を訴外会社に与えたこと、以上の事実は当事者間に争いがない。
以上の事実関係のもとにおいては、控訴人は、本件公有水面の沿岸土地所有者として、対岸土地所有者である訴外会社と同様、本件公有水面を工場敷地として使用許可を受けることにより多大の利益を蒙るわけであり、それだけに他の誰よりもこれを期待する度合も高い関係にあること、しかるに被控訴人の訴外会社に対する本件使用許可処分の如何によつては控訴人の前示期待的利益が侵害されることもありうるというべきであるから、控訴人は本件取消訴訟を提起する法律上の利益を有するものであると解すべきである。これと異なる被控訴人の本案前の主張は原許可処分の当否、違法性の有無に関するものというべきであるから採用できない。
三 本件使用許可処分処分の違法性の有無
(一) 長崎県条例第五一号違背の有無について。
本件公有水面使用許可処分は長崎県条例第五一号公有土地水面使用料及び産物払下料徴収条例にもとづいてなされたものであるところ、同条例第五条においては、「公有土地、水面を使用しようとする者は別記様式第一号の申請書に左の図書を添付して知事に提出しなければならない。」と規定され、その第五号(二)には、「申請区域及びその附近に既存権利を有する者があつてこの条例の許可に重大な利害関係あるときはその承諾書」と規定されていることは同条により明らかである。
そこで、控訴人が右にいう「申請区域及びその附近に既存権利を有する者であつてこの条例の許可に重大な利害関係あるもの」に該当するか否かについて判断するに、前記条例の趣旨、許可の性質に照せば、前記条例による公有水面の使用許可処分は公物管理権者たる被控訴人が公物管理権の作用として行う行政行為であつて、これを許可すべきや否やは専ら公益的見地から決すべき被控訴人の自由裁量行為であると解するのが相当である。しかし、右許可処分が自由裁量行為であるとしても、右公有水面の使用権を与えるにより第三者の公物に関する既得権を侵害することは許されず、かかる使用許可処分は違法、無効というべきであるから、被控訴人においてかかる誤りを犯すことがないように、使用せんとする者からの許可申請に際し、あらかじめ、これを防止するための対策として、前記のような第三者の承諾書の添付を要することを規定したものと解される。したがつて「既存権利を有する者」とは、すでに公有水面の使用権を有する者、その他、申請の対象たる水面に関し公物使用権を有する者を指称すると解すべきであつて、かかる権利を有しない者はもとより、単に公有水面の対岸の土地を所有するにすぎない者も、右「既存の権利を有する者」には該当しないというべきである。
本件についてこれをみるに、控訴人は対岸土地所有者であるにすぎないから、前記条例第五号(二)所定の既存権利者には該当せず、したがつて控訴人の承諾書の欠缺が本件使用許可処分を違法ならしめるものではなく、この点についての控訴人の主張は理由がない。なお控訴人は本件公有水面の一部について通行権を有していたと主張するが、これを認めるに足る証拠はない。
(二) 自由裁量の限界の逸脱の有無について。
(1) 本件公有水面の使用許可処分が被控訴人の自由裁量行為であるとはいうものの、前示本件公有水面の位置、申請地の使用状況からみれば、特段の事情のない限り被控訴人は対岸者双方に公平な使用権を与えるべきであり、理由なく一方のみを利するような不公平な許可処分をした場合には、裁量の限界を逸脱した違法の行為というべきである。
ところで、<証拠略>控訴人と訴外会社は双方昭和三五年正式許可の申請をする以前から、本件公有水面をそれぞれ工場敷地として無断使用していたもので、右双方の工場が相接する線は僅かに控訴人所有敷地側に寄つているがほぼ川の中心線に沿うていたこと、もつとも、本件公有水面の県道に面する区域はその暗渠上に旧長崎市の消防団詰所が建築されており、昭和三三年三月訴外会社が市に金二六万円を寄附したため、同詰所が廃止されるにおよび右建物は訴外会社に払下げられ、じ来訴外会社はこれを増築改築して工場建物の一部として使用してきたが、控訴人においてはかつてこれを使用したとはないこと、被控訴人は以上の点を考慮し、訴外会社に対しては、前記旧消防詰所の区域は、控訴人との競願であつたのにかかわらずこれを折半することなく、この部分の全部をふくめ、その他は前記川の中心線を範囲として、本件水面の使用を許可したものであること、なお、前記消防詰所の占める水面の割合は本件水面の全長約六〇メートルに対し、一〇、七メートルの僅少範囲であること、以上の事実を認めることができ、<反証排斥>。
以上の事実よりみれば、本件認可処分をもつて裁量の限界を超えた不公平な措置であるとするには当らないから、この点に関する控訴人の主張は理由がない。(佐藤秀 亀川清 高石博良)